Case 04
The House in Suimeidai
この家は、通りに面した側にほとんど窓を設けていない。既存の石積み擁壁の上に、濃いチャコールの壁が一枚の面として立ち上がるだけである。瓦屋根の家並みが続く住宅地にあって、この佇まいは明らかに異質だが、目立つことを狙ったものではない。道路面を閉じることでしか得られない静けさと、その代償として内側に確保する開放感を、最初から交換条件として捉えた結果である。
閉じているのは外側だけだ。内部では居間の上を大きく吹き抜けにして、面積ではなく体積を確保している。街に対して閉じ、内に向かって開く。外観と内部のこの落差こそが、この家の骨格をなしている。
吹き抜けの壁には、スポットライトが等間隔に四灯並べられ、壁面そのものを照らしている。天井を明るくするのではなく、壁で光を返す。夜に天井がより高く感じられるのは、この照らし方によるところが大きい。加えて吹き抜けに面して二階に室内窓が設けられており、上階と下階が視線と気配でつながっている。
キッチンとダイニングの上だけ、天井が一段下げられている。その見切りには間接照明が回された。ひと続きのLDKのなかに、囲まれた場所をつくるための操作である。一方、居間の奥では床が一段上げられ、小上がりとなっている。天井を下げ、床を上げる。水平面を上下させることで、壁を立てずに居場所を分けている。
素材は絞られている。床は幅広の木、壁はベージュの塗り壁調、そしてキッチンの背面だけが石目調のタイル。この三つで大半が構成され、色数は増やされていない。金物には真鍮色が通され、洗面のフックからトイレのペーパーホルダーまで揃えられている。細部の統一は目に見えて主張するものではないが、まとまりの印象はここから生まれる。
トイレは細長い平面をそのまま活かしている。壁を天井まで通し、途中で見切らない。この一室だけ縦の伸びが強調され、家のなかで最も静かな場所になっている。壁に彫り込まれた二段のニッチのほかには、何も置かれていない。
駐車場は擁壁を掘り込んで確保されている。既存の石積みはそのまま残し、新設のコンクリート擁壁をその隣に据えた。古い石と新しいコンクリートが並んで基壇をつくり、その上に黒い箱が載る。土地の成り立ちを消さずに新しい建築を接ぎ木する、丁寧な納まりである。
写真をクリックすると拡大します